Hanabiに提供いただいているのは、強く、軽い部品をつくれる3Dプリンターだけではありません。設計したものをすぐに形にし、実際のロボットで試し、次の改善へつなげていく。その試行錯誤を、これまでとは違う速度と発想で進めるための環境です。
では、Markforgedはなぜ学生チームであるHanabiを支援しているのでしょうか。そして、Hanabiのような現場で生まれる試行錯誤は、これからのロボットづくりやものづくりのあり方に、どんな変化をもたらすのでしょうか。
今回は、Hanabiの2代目代表・龍田元希と、3代目代表・米田和叶が、MarkforgedでNorth Asiaとして日本・韓国地域を統括する森さんにお話を伺いました。
国際ロボットコンテスト「FIRST Robotics Competition(FRC)」に挑戦する、神山まるごと高専の学生チーム「Hanabi」。2026シーズンからは、産業用3Dプリンターを開発するMarkforgedにリソースパートナーとしてご支援いただき、ロボットに使用する部品の設計・造形に取り組んでいます。

龍田:まず、森さんの自己紹介と、Markforgedがどのような会社なのかを教えてください。
森:Markforgedの森です。現在はNorth Asiaとして、日本と韓国の地域を統括しています。
Markforgedは、簡単に言えば3Dプリンターを製造・販売している会社です。ただ、3Dプリンターと聞くと、まだ「形を確認するための試作品をつくる機械」という印象を持つ方も多いかもしれません。実際、以前はサンプル品を早くつくり、設計した形を確認するための道具として使われることが中心でした。
しかし、現在は使われ方が大きく広がっています。試作品をつくるだけではなく、実際に機械や製品の中で使う部品をつくる、生産のための機械として導入されるようになってきました。
ものを形にする方法は、大きく分けると三つあります。一つの材料から不要な部分を削り出す「切削」、型に材料を流し込む「射出成形」、そして材料を少しずつ積み重ねて形をつくる「アディティブマニュファクチャリング」です。3Dプリンターは、この積み重ねてつくる方法にあたります。
従来の製造業を支えてきた切削や射出成形を、すべて3Dプリンターへ置き換えるわけではありません。それぞれの得意分野を生かしながら、従来の工法では難しかったものを補完する、新しい生産手段として広がっているのが現在の3Dプリンターです。
米田:Hanabiにも、一般的なフィラメント方式の3Dプリンターがあります。Markforgedのプリンターは、同じ3Dプリンターでも何が違うのでしょうか。
森:アディティブマニュファクチャリングにも、粉末を固める方法や、液体の樹脂へ光を当てる方法など、さまざまな方式があります。Markforgedが採用しているのは、フィラメントを熱で溶かし、下から一層ずつ積み上げていくFFF(Fused Filament Fabrication)、熱溶解積層方式です。
大きな特徴は、カーボンファイバーを使い、プラスチックでありながら高い強度を持つ部品をつくれることです。一般的なカーボン入りフィラメントには、細かく切った繊維が材料へ混ぜ込まれています。Markforgedではそれに加えて、長いカーボンファイバーを造形物の内部へ連続的に配置し、必要な方向を補強できます。
そのため、これまでアルミなどの金属でつくっていた部品を、強度を保ちながら軽い材料へ置き換えることができます。ドローンや航空機、レーシングカー、ロボットなど、軽さと強さの両方が求められる領域で活用されています。
龍田:FRCのロボットも、動きの速さを上げるために軽量化したい一方で、競技中の衝撃に耐える強度も必要です。まさに両方が必要な分野ですね。
森:そうですね。さらにFRCでは、毎年ゲームのルールが変わり、短い期間で、その年にしか使わないロボットを一台つくります。同じ部品を何万個もつくる大量生産ではなく、形の異なる部品を少量ずつ、必要になったタイミングですぐにつくる。そうした開発の進め方も、アディティブマニュファクチャリングと非常に相性が良いと思います。

龍田:Hanabiでは2026シーズン、スプロケットやギアなどの部品にMarkforgedのプリンターを活用しました。実際に使ってみると、CADで設計した部品が自分たちの手元で形になり、そのままロボットに載ることに大きな可能性を感じました。
一方で、まだ既存の金属部品を3Dプリンターで置き換えるような使い方が中心です。森さんから見て、Hanabiには今後どのような挑戦をしてほしいですか。
森:スプロケットやギアから始めるのは良いと思います。その先では、シャーシや筐体の一部など、もう少し大きな構造にも挑戦してほしいです。
軽量化は、単にロボットの総重量を減らすだけではありません。機体が軽くなれば、同じモーターのトルクでも動かしやすくなります。場合によっては、より小さなモーターを選べるかもしれない。そこで生まれた重量やスペースの余裕を、別の機構や機能へ使うこともできます。一つの部品を軽くすることが、ロボット全体の設計へ連鎖していきます。
ただし、金属部品とまったく同じ形を、材料だけ変えて出力することが最終地点ではありません。アディティブ工法の面白さは、これまでの加工方法ではつくりにくかった形を、一度に造形できることです。
切削では、工具を部品へ当てて削るため、工具が入り込めない形はつくれません。板金にも、曲げや接合の制約があります。一方、材料を積み重ねる3Dプリンターであれば、有機的な曲線や、内部が複雑な構造、必要な場所だけに材料を配置した形もつくれます。
たとえば、部品同士の干渉を避けながら、アームがより短い軌道で動ける形を考える。力がかからない部分は材料を減らし、必要な部分だけを厚くする。金属でつくっていた部品を置き換えるのではなく、3Dプリンターでつくることを前提に、機構や動きから設計を考え直す。そこまで試せると、デザインの制約を一つ越えられると思います。
米田:完成した設計を出力する機械として使うのではなく、3Dプリンターがあるからこそ成立する設計を考えるということですね。
森:その通りです。企業の製造現場では、実績のない構造をすぐに採用することが難しい場合があります。安全性や品質を保証する必要があり、一度確立した方法を簡単には変えられません。
一方、学生チームには、失敗しても次の形をつくり、検証し直せる自由があります。企業がまだ試せていない使い方を、Hanabiのようなチームが先に見つけることもあり得ます。既存の考え方に縛られず、実際に使いながら、Markforgedの新しい活用方法を広げてもらえたら嬉しいです。
龍田:MarkforgedがHanabiを支援しようと思ってくださった理由には、製品とロボット競技の相性だけでなく、学生への期待もあると伺いました。
森:日本では海外と比べて、アディティブマニュファクチャリングを生産現場で活用する動きが、まだ少し遅れていると感じています。
これは、日本のものづくりの技術が低いという意味ではありません。むしろ、日本には長い時間をかけて磨かれてきた加工技術があり、切削や射出成形によって非常に高品質なものをつくることができます。その完成度が高いからこそ、新しい技術を取り入れる必要性が見えにくかったり、確立した方法を変えることへ慎重になったりする面があります。
もう一つの課題は、3D CADを扱い、設計から造形まで進められる人が十分に育っていないことです。3Dスキャナーを使えば、実物の形をデータにすることはできます。しかし、そのデータを目的に合わせて修正し、部品として使える形へ設計し直すには、CADを扱う力が必要です。
海外と比べると、学校で3D CADやアディティブマニュファクチャリングを実践的に学べる機会は、まだ多くありません。企業が学校の中に専門のコースをつくることも、簡単ではないです。
だからこそ、学生の段階で実際の機械に触れ、設計し、造形し、使ってみる経験が重要だと思っています。皆さんは若く、新しい技術を柔軟に吸収できます。Hanabiで得た経験を、それぞれが将来企業や研究の場へ持っていけば、少しずつ業界全体の底上げにつながります。
米田:授業の課題として3Dプリンターを使うのではなく、実際の競技で動くロボットの部品をつくっているのが、Hanabiの特徴ですね。壊れたり、設計通りに動かなかったりすると、その結果がすぐに返ってきます。
森:そうですよね、そこが非常に良いと思いました。3Dプリンターを操作できるだけではなく、何のための部品なのか、どの方向から力がかかるのか、軽さと強度をどう両立するのかまで考えなければいけません。
設計して、造形して、実際に使い、問題があれば修正する。Hanabiには技術を学ぶための練習問題ではなく、本当に解かなければいけない課題があります。その環境で経験を積むことには、大きな意味があります。
龍田:Hanabiでは、実際に部品をつくり、ロボットへ載せ、壊れたらまた設計を変えるという試行錯誤を繰り返します。ただ、シーズン中は時間も材料も限られています。
森:実物をつくって試すことは必要ですが、すべてを手当たり次第に造形する必要はありません。Markforgedのソフトウェアには、部品にかかる力を事前にシミュレーションする機能があります。
たとえば、部品のどの面へ、どの方向から、どれほどの荷重がかかるのかを設定します。複数の形状を用意して、この設計なら耐えられる、この部分は強度が足りない、と造形前に比較できます。
もちろん、シミュレーションだけで完成するわけではありません。最終的には実物をつくり、実際のロボットで検証する必要があります。ただ、事前に可能性を絞り込んでから造形すれば、試行錯誤をより効率的に進められます。
設計、シミュレーション、造形、実機での検証。そして結果を受けて、また設計へ戻る。この一連のサイクルをHanabiの中で回してほしいです。
米田:これまでは「まずつくってみる」が先に来ることが多かったです。シミュレーションを使えば、なぜ壊れたのかを感覚ではなくデータから振り返ったり、次につくる形へ根拠を持たせたりできそうです。
森:そうですね。結果も含めて発信してもらえると、Hanabiだけの学びで終わりません。どのような設計をして、何をシミュレーションし、実機ではどうなったのか。それを共有すれば、同じようにロボットやものづくりへ取り組む人たちにとって、新しい事例になります。
米田:森さん個人として、これから日本のものづくりが、どのような方向へ進んでほしいと考えていますか。
森:製造メーカーにとって理想なのは、必要なものを、必要な時に、必要な分だけつくれることだと思います。
従来は、将来必要になる部品をあらかじめ大量に生産し、物理的な在庫として保管する必要がありました。しかし、部品の3Dデータを保有し、必要な場所で必要な数だけ造形できれば、在庫は部品そのものではなくデータになります。これが「デジタル在庫」という考え方です。
物理的な在庫を減らせば、倉庫で保管するコストを抑えられます。遠くの工場から部品を運ぶ必要も減り、輸送コストや環境への負荷も小さくできます。サプライチェーンに問題が起きたときにも、部品が届くのを待つだけではなく、必要な場所でつくる選択肢を持てます。
また、これからは一つの標準品を大量につくるだけではなく、使う人や用途に合わせた小さなカスタマイズが、より求められると思います。同じ製品であっても、体格や使い方に合わせて形を変えたり、少しだけ機能やデザインを変えたりする。少量でも形を変更しやすいアディティブ工法は、そうしたものづくりにも向いています。
日本の優れた従来技術を捨てる必要はありません。切削や射出成形の強みを残しながら、新しい技術を適切な場所へ組み合わせる。若い皆さんには、どちらか一方を選ぶのではなく、柔軟な発想で最も良い方法を組み立ててほしいと思っています。
龍田:Hanabiでも、金属加工か3Dプリンターかを最初から決めるのではなく、その部品に何が必要なのかを考えて、最適な方法を選ぶことが大切ですね。
森:そうです。3Dプリンターを使うこと自体が目的になってはいけません。必要な強度、重さ、製作時間、数量を考えた結果として、アディティブ工法が最適なら使う。従来の方法が適しているなら、そちらを使う。選択肢を増やすことが重要です。
龍田:最後に、これからHanabiで活動するメンバーへメッセージをお願いします。
森:今回、海外大会では空港へ着いてからもさまざまなトラブルがあり、その中で現地までたどり着き、大会へ参加したと聞いています。次のシーズンは、今年の経験を生かして、さらに準備を重ねてほしいです。
そのとき、3Dプリンターを単に部品を出力する機械としてではなく、ものづくりの進め方を変える考え方として取り入れてみてください。
極端に言えば、必要になった部品を大会の現地で造形することも考えられます。プリンターそのものを持っていくことが現実的かどうかは別として、データさえあれば、現地の設備を使って部品をつくる可能性はあります。
そのためには、ロボットを最初からモジュール構造で設計しておくことが重要です。大きな部品を一体でつくるのではなく、小さなパーツへ分けておき、壊れた場所だけをつくり直して、現地で組み上げる。接続部分にどれほどの力がかかるのかを事前にシミュレーションし、必要な強度を確保しておけば、突発的なトラブルにも対応しやすくなります。
完成したロボットをどう運ぶかだけではなく、現地でどう直し、必要ならどうつくり直すかまで含めて設計する。設計、製造、輸送、修理、運用を一つの流れとして捉え直すことができます。
新しい材料を使うだけでなく、ものづくりの方法そのものを変える。学生チームだからこそ、できるかどうかを最初から決めつけず、柔軟に試してほしいと思います。
米田:次のシーズンでは、スプロケットやギアだけではなく、より大きな構造やシミュレーションにも挑戦し、どこまでできたのかを発信していきたいです。
龍田:完成したロボットだけでなく、その途中でどのような設計を試し、何がうまくいかなかったのかまで、Hanabiの学びとして残していきます。本日はありがとうございました。
森:こちらこそ、ありがとうございました。実際に使ってみて、どんなことができたのか、どんなところが難しかったのか、どこまで負荷に耐えられたのか。また皆さんの結果を聞かせてください。
今回の対談を通して見えてきたのは、3Dプリンターが単なる便利な工作機械ではなく、ものづくりの前提を変えうる技術だということでした。
必要なものを、必要な時に、必要なだけつくる。金属を軽い材料へ置き換えるだけでなく、これまでつくれなかった形に挑戦する。つくる前にシミュレーションし、設計と検証のサイクルを速くする。そして、必要な部品を現地でつくれることを前提に、ロボット全体の構造を考え直す。
Markforgedから提供いただいているのは、一台の3Dプリンターだけではありません。新しい技術を自分たちの手で試し、従来のものづくりと組み合わせながら、より良い方法を探していく機会です。
Hanabiは、ロボットをつくるだけでなく、ものづくりの文化の火種を次の世代へ広げるチームを目指しています。Markforgedとのパートナーシップを通じて、メンバー一人ひとりが設計と製造の可能性を広げ、その学びを未来のものづくりへつなげていきます。
(取材日:2026年5月28日)